
防衛省によると、空自のスクランブルは飛行ルートを分析し、領空侵犯の恐れがある場合に実施されている。東シナ海上空での中国無人機の飛行は「近年、毎日のように確認されている」(防衛省幹部)のが実情だ。
実際に領空侵犯があったのは1回で、沖縄県の尖閣諸島上空に17年5月、中国海警局のものとみられる子型無人機が侵入した。
中国の無人機に対するスクランブルは13年9月が最初で、17年5月と18年4月にも行われ、19年と20年はゼロだった。
様相が変わったのは、中国が台湾有事を想定した軍事演習を強化した21年夏だ。同年8月谷22年7,8月には、攻撃型の「TB001」が東シナ海から沖縄県宮古島と沖縄本島間の宮子海峡を通り、太平洋に出る動きを見せた。今年1月には、高高度を長時間滞空する偵察機「WZ7」の太平洋進出も初めて確認された。
こうした飛行は、台湾有事などをにらんだ中国軍の構想「A2AD(接近阻止・領域拒否)」と符合する。米艦船などに対し、TB001はミサイル攻撃、WZ77波追尾を想定して演習を行っているとの見方がある。
防衛省は今月、過去3回にわたって領空侵犯していた気球を中国の偵察用と推定。気球や無人機が領空を侵犯した場合に備え、自衛隊の武器使用基準を緩和し、正当防衛などに該当しなくても撃墜できるようにした。ただ、17年5月の事例では、無人機は5分間程度で領空から出たが、尖閣上空などに長時間とどまった場合、政府は撃墜するかどうか、難しい判断を迫られる。
空自の航空総隊司令官を務めた武藤茂樹・元空将は、「中国は実践を想定した無人機の運用を加速させている。尖閣諸島の実効支配を狙い、感染の領海侵入に続き、無人機の領空侵犯を常態化させる恐れもある」と指摘している。
読売新聞